最 終 準 備 書 面

2020年10月31日

大阪地方裁判所第5民事部合議2B係 御中

第1 認定されるべき事実

1 再任用希望調査と再任用申込み

府教委は、2016年度定年退職者に対し、2016年9月ないし10月頃に再任用の予備調査、12月に再任用の本調査を実施した。原告は、現勤務校のある2学区でのフルタイムでの勤務を第1希望とした(争いなし)。

2 意向確認及び原告の再任用拒否

(1)2017年1月24日朝、原告は1月から新たに勤務校の校長となったA校長から呼び出され、「再任用に関連してお聞きします」と言われ、「今後、入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に従いますか? はい、か、いいえで答えて下さい」と聞かれた。原告は、「これが再任用に関わる質問であるということなら、生徒の就職の面接でも、このような質問には答えないように指導しているので、答えることはできません」と返答した(争いなし。甲26、原告調書9~11頁、B調書8~10頁)。

A校長は「意向確認はできなかったことになるがよいか」と言うので、原告は「今の回答でそうなると判断するというのなら仕方がないが、なぜ答えないかと言うことをきちんと伝えて下さい」と求めた(甲26、原告調書11頁)。

(2)1月26日、原告はA校長に、単に「なぜ答えないかという部分をきちんと伝えたか」を確認し、府教委に「思想・信条に関わる質問を再任用に関連して聞くことを不適切ではないか」という点を聞くように依頼した。すると、翌1月27日に、「こちらからこの件に関して答えることはない」との府教委からの回答を伝達された(争いなし。)。

(3)2017年1月30日、府教委は、平成29年度再任用教職員採用審議会を開催した。

原告は、同会議に案件⑥として上程され、「上司の職務命令や組織の規範に従う意識が希薄であり、教育公務員としての適格性が欠如しており、勤務実績が良好であったとはみなせない」として、再任用選考結果を「否」とする、とされた(甲2の1乃至2の3)。

(4)原告は、2月1日及び2月2日に大阪府商工労働部労政課に対して上記の出来事を相談し、府教委に対する指導をするよう要請した(甲26、原告調書12頁)。それを受けて、2月3日、商工労働部の担当者が府教委の教職員人事課担当者と面談し、上記質問が公正な採用選考に関する14項目のうち「思想・信条に関わるもの」に該当するので十分注意するように、との改善要請を行った(甲1の1、1の2、甲26、原告調書12頁、B調書14頁)。

(5)2017年2月17日、原告は校長より「総合的に判断して再任用結果を否とします」と口頭で連絡を受けた(争いなし)。

(6)2017年3月31日付で原告は定年により退職となった。2017年4月1日、原告は再任用されず、同日付で府教委により再任用を拒否された。

第2 本件意向確認の違法性

1 本件意向確認が再任用の可否を決定するために行われたものであること

(1)府教委教職員人事課からの指示でA校長が「再任用に関連してお聞きします」と述べたこと

上記の通り、2017年1月24日朝、原告は1月から新たに勤務校の校長となったA校長から呼び出され、「再任用に関連してお聞きします」と言われ、「今後、入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に従いますか? はい、か、いいえで答えて下さい」と聞かれている(B調書4頁、原告調書9~10頁。争いのない事実)。

上記のA校長の言葉は、府教委教職員人事課から指示した言葉をそのままA校長が述べたものであり、「再任用に関連してお聞きします」との言葉も教職員人事課からの指示である(A調書4頁)。

(2)原告が研修を受けたのは2016年1月であったところ、本件意向確認は再任用審査会が開かれる直前の2017年1月24日であったこと

原告が君が代斉唱時の不起立を理由に2回目の戒告処分を受けたのは、2014年3月であり、処分後の研修は約2年後の2016年1月に実施された。原告が書き換えた意向確認書を提出したのは、研修直後であったから、府教委としてはその後すぐに再度の意向確認を行うことも十分に可能であった。

しかし、実際には、府教委は、原告の再任用についての審査会が行われる直前になって本件意向確認を行っている。

(3)原告と同時期に研修を受けた教員らに対し、いずれも当該教員の再任用の可否が決まる直前に意向確認が行われていること

C氏とD氏は、いずれも君が代斉唱時の不起立で戒告処分を受け(なお、D氏については大阪高裁で処分が取り消され、確定している)、C氏は意向確認書を書きかえて提出し、D氏は意向確認書を提出しなかった。

仮に研修の一環として本件意向確認を行っているのであれば、C氏とD氏についても原告と同時期に意向確認を実施しているはずである。しかし、実際にはC氏とD氏に対する意向確認は、原告と同じ2017年ではなく、C氏については2018年、D氏については2019年と、いずれも当該教員についての再任用審査会が開催される直前に行われている(以上につき、原告調書13~14頁、C陳述書(甲16)、D陳述書(甲17))。

(4)E氏に対する意向聴取が原告と同じ時期に行われていること

    E氏は、原告と同じ2017年1月に意向確認を受けているところ、E氏が君が代斉唱時の不起立のために戒告処分を受け研修を受けたのは、2012年であり、5年も前のことであった(以上につき、原告調書14頁、E陳述書(甲15))。

(5)小括

上記4点からすれば、府教委は、本件意向確認を原告の再任用の可否を決めるために行っていることは極めて明らかである。

2 本件意向確認が「違反質問」に該当すること

(1)厚生労働省は、採用選考に関連して、「公正な選考の基本的な考え方」を公表しており、14項目の違反質問を例示している。本来自由であるべき人生観・生活信条などに関すること、思想に関すること等も違反質問に含まれる(甲3)。

これを受け、大阪府商工労働部が作成した「採用と人権-従業員採用の手引き―」(甲27)には、さらに詳細な説明が記載されており、まず基本的な考え方として、企業に採用の自由があるからといって、不当な求人情報を出したり、選考時に何を聞き、何を書かせてもよいわけではなく、応募者の基本的人権を侵す採用の自由が認められないことが明記されている(9頁)。14項目の違反質問については、「聞かない」「書かせない」「調べない」よう指導があり、仮に受験生の方から話し出した場合には、趣旨を応募者に説明し、選考に用いないことを伝えるよう記載されている(54頁)。

また、思想・信条に関する質問がいけない理由については、「思想・信条や宗教、支持する政党、人生観などは、信教の自由、思想・信条の自由など、憲法で保障されている個人の自由権に属する事柄です。それを採用選考に持ち込むことは、基本的人権を侵すことであり、厳に慎むべきことです。思想・信条、宗教などについて直接質問する場合のほか、形を変えた質問を行い、これらのことを把握しようとする企業がありますが、絶対に行うべきではありません」と明確に述べられている(55頁)。

本件意向確認は、一般的に職務命令に従うか否かを問うたものではなく、「入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む」職務命令に従うか否かを問うたものである。君が代斉唱時に起立斉唱するか否かは、まさに原告の思想信条に関する直接の質問であるし、百歩譲って仮に外形的な行為への質問であったとしても、形を変えて原告の思想信条に関して質問しており違反質問に該当することは明らかである。

また、仮に本件意向確認が研修の一環として行われたものであったとしても(事実ではないことは既に述べた通りではあるが)、そこで知り得た原告の思想・信条に関する事柄を再任用の選考に用いることは許されない(B調書20頁参照)。 

(2)2017年2月3日、大阪府商工労働部は大阪府教委の教職員人事課を訪問し、本件意向確認につき調査を行っている。

この際、商工労働部は、「再任用が通常の採用選考と異なるものであったとしても、公正な採用選考に反するおそれがあるとされる14項目の内容を聞くことは、問題事象を生じさせることに繋がる。今回の「思想・信条に関わること」を採用選考で質問することは、公正な採用選考に反する14項目の1つにあたる」という見解を述べている。上記第3、1で述べたように本件意向確認がまさに再任用の選考のために行われたことであることからすれば、商工労働部の指摘は本件意向確認が違反質問であることを端的に指摘したことになる。

(3)上記商工労働部の指摘を受け、府教委自身も再任用選考のために君が代斉唱時の意向確認を行うことには問題があると考えたからこそ、府教委は指摘を受けた後の意向確認の際には、「君が代斉唱時の起立斉唱を含む」という文言を自ら削除した。

被告は、同文言を削除したのは、君が代斉唱時に不起立する教員が減ったからだと主張し、B証人も同趣旨の証言をしている。しかし、B証人は、誰がどのような場面で言ったのか、また削除に係る意思決定のプロセス等具体的なことは一切回答することはできなかった。また、商工労働部の指摘を参事に報告した際、どのような反応が参事からあったか、「記憶にはない」と述べているが、極めて不自然である(以上につき、B調書18~20頁)。

実際には、商工労働部の指摘を受け、府教委自身も問題であると考えたからこそ、その次の意向確認から「君が代斉唱時の起立斉唱時を含む」という文言を削除したことは明らかである。

3 本件意向確認が違憲・違法であること

(1)憲法19条に反すること

本件意向確認が、「慣例上の儀礼的な所作」ではないこと、思想・信条の自由に対する「間接的制約」にとどもまるものではないこと、思想に関する行為の告白を強制するだけでなく、特定の思想を持つことを強制・禁止したものと評価されるべきであり、憲法19条に違反することは原告準備書面⑷において詳述した通りである。

この点、被告は、府教委は今後、職務命令に従うか否かを確認したにすぎず、原告が「答えることはできない」と回答したのに対し、それ以上の強要はしておらず、「思想の告白」を強要するものではない等と主張している(被告準備書面(3)・5頁)。

しかし、被告の主張を敷衍すれば、要するに、原告は「国歌斉唱時の起立斉唱を含む職務命令に従う」と回答する以外には、再任用されることはないのであり、「再任用されたければ起立斉唱すると言え」と命じられていることと等しい。原告にとって、再任用を拒否されることは、職を失い、生活の糧を奪われると共に、何物にも代えがたい生徒らと過ごす時間を失うことを意味し、その強制の程度は極めて強度である。

(2)地公法13条・15条に違反すること

本件意向確認が、能力の実証に基づかずに職員の任用を行うための前提となるものであり、かつ、個人の政治的意見等により差別的に取扱う意思の下に行われたものであり、地公法13条及び15条に違反することも既に述べた通りである。

(3)大阪府個人情報保護条例7条5項に違反すること

本件で、原告の「君が代」に対する考え方や君が代斉唱時に起立するか否かは、原告の信条に関わるものであるので、大阪府個人情報保護条例7条5項の「要配慮個人情報」に該当し、原則として収集が禁止される。被告は、収集禁止の除外事由である同条例7条5項但し書き所定の事由が存在する旨の主張を行っておらず、本件意向確認は大阪府個人情報保護条例7条5項に違反する。

第3 本件再任用拒否の違法性

1 府教委では原則として希望者はほぼ全員再任用されるという運用が確立していたこと

(1)最高裁2018年7月19日判決は、「任命権者は採用を希望する者を原則として採用しなければならないとする法令等の定めはな」く、「選考の合否を判断するに当たり、従前の勤務成績等をどのように評価するかについて規定する法令等の定めもない」として、「選考の合否の判断に際しての従前の勤務成績等の評価については、基本的に任命権者の裁量に委ねられている」としている。しかし、この最高裁判決から、直ちに、被告に本件再任用拒否にかかる広範な裁量権が認められることにはならない。

まず、上記最高裁判決の事案では、2007年3月、2008年3月、2009年3月の定年退職者の再雇用職員、非常勤教員への採用が問題となっており、最高裁自身が「その当時の再任用制度等の下において、著しく合理性を欠くものであったということはできない」(傍線引用者)として、その射程に限界を設けているということに留意しなければならない。

そして、本件事案当時においては、地方公務員についても、雇用と年金を接続して地方公務員の生活を保障するという観点から、義務的な再任用を導入する方針が決定されており、(甲6、甲7)、定年退職する職員が再任用を希望した場合、当該職員の任命権者は、退職日の翌日、地公法28条の4の規定に基づき、当該職員が年金支給開始年齢に達するまで、常時勤務を要する職に当該職員を再任用するものとすること、とされ(甲7、1項)、再任用しない者の要件としては、地公法16条もしくは28条等規定に基づく欠格事由又は分限免職事由としており、極めて限定的な要件が設けていた(甲7、2項)。このように、前記最高裁判決の事案で問題になっている2007年~2009年当時とは異なり、本件当時は、再任用制度の趣旨が、地方公務員について、「任命権者は採用を希望する者を原則として採用しなければならないとする法令等の定め」があったというべきであり、再任用を希望する定年退職者等について、任命権者が再任用を認めるか否かについての裁量権については、上記最判が認定するような、きわめて広範なものになるとは到底言い得ない(原告準備書面(2))。

大阪府は、総務副大臣通知が発出されるより前の2000年12月22日に再任用条例を制定していた(乙1)。大阪府再任用条例は、年金支給開始年齢の引き上げに対応して再任用任期の末日を定める附則4を置いていることから、「雇用と年金の接続」という国の政策趣旨と目的を同じくするものである(原告準備書面(5))。

(2)そして、実際にも被告は、大阪府立学校教員、府費負担市町村立学校教職員について、再任用を希望する者の実に99パーセント以上を再任用しており(被告主張によれば2014年度~2019年度の平均で再任用率は99.8パーセント(被告準備書面(6)、乙7))、本件再任用拒否がなされた2017年度については、再任用を希望しながら再任用を認められなかった者は、卒業式における国歌斉唱時の不起立による処分歴があり、「意向確認」が出来なかったと府教委が判断した者2名(原告と、甲15の作成者であるE氏)、休職により勤務実績が非常に少なかった者1名の計3名に過ぎず、被告が、2017年度の当時、再任用を希望する者をほぼすべて再任用するという運用をしていたにもかかわらず、国歌斉唱時の不起立による被処分者を狙い撃ちにして再任用を拒否したことは明らかである(原告準備書面(6)、甲2、甲23の1の1~甲23の2の3)。

2 本件再任用拒否が裁量権の逸脱濫用によるものであること

(1)本来考慮すべきでない意向確認を考慮してなされたものであること

本件で、原告がA校長から聞かれた、「今後、入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に従いますか? はい、か、いいえで答えて下さい」という質問(本件意向確認)は、原告の思想や信条にかかわるものであり、いわゆる違反質問として採用選考の際には質問してはならないものとされている(甲27、甲29)。よって、再任用の合否判定に際しても、本件意向確認の内容は考慮すべきではない。

そして、原告は、「これが再任用に関わる質問であるということなら、生徒の就職の面接でも、このような質問には答えないように指導しているので、答えることはできません」と返答したが、本件再任用拒否においては、被告は前記のような原告の返答により、入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む職務命令に従うという意向確認が取れなかったとして、そのことを教育公務員としての適格性の欠如や勤務実績が良好であったとみなせない理由としている。このことは、違憲違法な本件意向確認を再任用の判断に際して考慮していることになり、考慮すべきでない事情を考慮している点で違法である。

(2)考慮すべき事情を考慮していないこと

ア 原告が本件意向確認に答えられないとした事情を考慮していないこと

本件で、原告が本件意向確認に対して前記のような返答をした理由は、原告が、生徒の就職指導で違反質問に対して答えないように指導しているため、こんな質問に答えることはできない、というものであった(原告調書10~11頁)。生徒に対するこのような指導は、大阪府立高校ではごく標準的なものであり(甲29、B調書16頁)、原告が本件意向確認に答えられないとした理由は原告の再任用の可否の判断にあたり十分考慮すべきであったと考えられる。

被告の教育委員会は、A校長からそのような報告を受けていながら(B調書9頁)、原告が本件意向確認に対して答えられないとした事情を考慮しておらず、考慮すべき事情を考慮していない点で違法である。

イ 本件意向確認が「違反質問」に当たることを考慮していないこと

本件意向確認は、大阪府の商工労働部から、内容としては公正採用に関する「違反質問」に該当するとの指摘があった(B調書5頁)。そして、府教委の担当者としては、違反質問の内容について偶然知ってしまった場合には、合否判定に使っていいということにはならないと認識していた(B調書20頁)。

そうであれば、本件意向確認を原告の再任用の可否の判断に用いることについては、慎重に考慮すべきであったというべきである。

にもかかわらず、被告は原告に対する意向確認が「違反質問」に該当することについて、全く考慮しておらず、商工労働部の指摘についても、原告の再任用の可否の判断を再検討するという形では考慮していない。

また、本件意向確認の翌年度以降、意向確認書の体裁が変わっており(甲14号証の2、B調書13頁)、原告が研修に際して提出した意向確認書(甲11)との対比で言えば、甲14号証の2で確認されている内容については確認できているというべきであるのに、そのことが考慮されていない。

ウ 校長の内申の結果を考慮していないこと

原告は、所属校の校長の再任用選考内申書によると、勤務実績等の4項目ともに「適」であり、総合評価も「適」であった(甲2の3)。にもかかわらず、そのことを考慮せず、再任用選考結果を「否」としており、考慮すべきことが考慮されていない。

3 平等原則違反

(1)被告の府教委は、卒・入学式における国歌斉唱時の不起立による被処分者についてのみ意向確認を行った上で、君が代斉唱時に起立斉唱する意向を有していると確認できなかったと判断した者を特に別異に取り扱い、本件不合格としているが、この取扱いは二重の意味(そもそも不起立の被処分者に対してのみ意向確認を行い、そして、意向確認できなかった者について別異に扱うという二重の意味)で信条による別異の取扱いであり合理性を欠くことは明らかである。この取扱いは、憲法14条1項や地公法13条が定める平等原則に違反するものであり、平等原則に反し、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たる。

(2)被告自身も、原告の再任用拒否以降に「意向確認」の様式を変え、「今後、入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に従います」との意向確認をすることはなくなり、現在では「今後、上司の職務命令に従います」のみの確認がされている

そして、原告の翌年に当たる2018年以降に定年退職を迎えた者の中で、過去に「君が代」で懲戒処分を受けた者について、府教委は「今後、上司の職務命令に従うか、はい、か、いいえ、で答えよ」という、「入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む」ということについては明示しない意向確認を行った上で、再任用を可としている。

仮に、原告に対しても、甲14の2の意向確認書のような、思想信条に関する質問にならない形の意向確認がされていたのであれば、原告としては十分対応可能であったところ(原告調書17頁)、府教委の対応は、原告ら2017年3月末に定年退職を迎えた者と、それ以降に定年退職を迎えた者について、別異の取り扱いを行ったことに他ならないのであり、平等原則に違反する。

4 比例原則違反

本件意向確認で原告の意向が確認できなかったとしても、教職員として勤務するにあたって実質的な弊害の発生は認められない。

他方、本件不合格により、勤労の権利や勤労の機会を奪われた原告の精神的苦痛は甚大であり、定年退職後の職を失い5年間の収入を断たれた経済的損失も大きい(原告調書15頁以降)。

したがって、本件不合格は比例原則に違反し、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たる。

第4 損害の発生

1 精神的損害

原告は,本件意向確認及び本件再任用拒否により,著しい精神的苦痛を被った。原告が被った精神的苦痛を金銭で評価すると50万円を下らない。

2 経済的損害

原告が再任用教員として採用されていれば,2017年度再任用教員としての職を務められたことは明らかであるから,原告は,本件再任用拒否によって2017年度の給与額399万7921円相当の経済的損害(逸失利益)を被った。

3 弁護士費用

本件意向確認及び本件再任用拒否に関して,訴訟追行のための相当な弁護士費用は金45万円を下らない。

第5 結論

以上のとおり,大阪府労委による本件意向確認及び本件再任用拒否は国賠法上違法であるから,国賠法1条1項,3条1項に基づき,被告は原告に生じた損害を賠償しなければならない。